アルファ米を初めて開発した長期保存食のトップ企業、尾西食品。
今月は防災に大切な非常食のこと、会社のことなど古澤紳一社長にお話を伺いました。
まずはどんな会社か教えてください!
アルファ米を中心に
長期保存食を製造・販売
1935年(昭和10年)創業、長期保存食を製造・販売する食品メーカーです。アルファ米を中心に、即食性のあるパンやライスクッキー、温かい汁物の麺類、誰にでも安心して食べていただけるようアレルギー物質28 品目不使用の商品やハラール認証マーク取得商品まで種類豊富に取り揃え、災害時だけでなく、登山、アウトドア、海外遠征・旅行などにもご利用いただいています。近時は環境への取り組みも加速させ、再生プラスチックを使用したパッケージやバイオマスマークを取得したスプーンの採用を行っております。
アルファ米を開発された時のことを教えてください!
アルファ米の誕生は79年前!
軍糧食から災害時に活躍する非常食へ
アルファ米とは、炊きたてごはんのおいしさをそのままに、急速乾燥したものです。お湯またはお水を注ぐだけでふっくらごはんが出来上がります。創業者の尾西敏保の東京での常宿が澱粉化学の研究者が頻繁に集う場所であったため、ここで米の主成分である澱粉に関する知識を高め、火を使わず、水を注ぐだけでつきたてのお餅になる「即席餅の素」や「葛練りの素」といった製品を開発しました。その後戦線の兵士のためにと海軍からの要請を受け、アルファ米を開発。ジャングルでは煙を上げず、潜水艦は浮上せず、水を注ぐだけで食べられる軍糧食として、終戦までに6千200トンが納入されました。
食品の開発ではどんなことを意識されていますか?
誰ひとり取り残さない
フード・ダイバーシティを目指す
非常食はお子様からお年寄りまで多くの方々にご利用いただきますので、味はもちろん、使いやすさにもこだわって開発しています。また、誰ひとり取り残さないフード・ダイバーシティを目指し、いつでも、どこでも、どんな時も、一人でも多くの方々に美味しい食事を召し上がっていただくことを意識しています。これからは保存食と言っても災害時に仕方なく食べるものではなく、災害時でなくても食べたくなるような日常の食事に近い美味しさと利便性を提供したいと考えています。
今後日本における保存食の需要はどのように変化していくでしょうか?
非常食は災害時に食べるものという
固定概念を変えていきたい
防災意識の高まりにより自助共助の考え方が広がり、自治体から配られることを期待するのではなく、自分自身にあった自分の好きな保存食をご家庭で備蓄するようになり、個人需要は今後益々増えていくと予想しています。ただ、非常食は災害時に食べるものという固定概念があり、ともすると賞味期限を過ぎてしまい食品ロスに繋がることがあります。また災害時には大きなストレスがかかり、食べたことのない非常食を目の前にして食欲が湧かないこともあります。これらを解消するために日常でも気軽に利用できるような非常食があれば、使用用途は無限に広がり、ご家庭での備蓄がしやすくなると考えています。
学校での防災教育への取り組みにはどんな思いがありますか?
非常食を通じて
防災の大切さを体験して欲しい
東日本大震災から12 年、大きな災害を知らない子どもたちが増える中、尾西食品では学校と連携し、「非常食」を通じて未来を担う子どもたちに防災や備えの大切さを「体験」しながら知ってもらう活動を進めています。いざという時に自ら考え行動し、周りの人たちと助け合って、生き延びる力を身に付けて欲しいと思っています。
お仕事の上で感じられる「やりがい」はどんなことがありますか?
SDGsな事業で
社会のためになっていることを実感
一番大きなやりがいは、社会のためになっているということです。創業から87年、尾西食品が今でも伸び続けている理由は、社会のためになり、国連が提唱するSDGsにも叶っているからだと考えています。社員たちも尾西食品の社員で幸せだと言ってくれる。それはやはりみんなが、自分たちの仕事が社会のためになっていることを感じてくれているからだと思います。
古澤社長が経験された「挫折」はありますか?
挫折だらけ!
でも失敗しないと成功はできない
それはもう、挫折だらけです(笑)。尾西食品の社長になる前は親会社の亀田製菓でマーケティングをしていましたが、毎回売れる商品なんてできるわけはなくて。7年ほど海外の事業を担当しましたが、海外なんて成功するのは打率より低いぐらいです(笑)。それでも絶対にうまくいくことはあります。失敗は成功の源で、失敗しない人には成功は絶対できないと私個人は思っています。
古澤社長はどんな高校生でしたか?
ほとんど休みのない部活の日々
外の世界をもっと知りたいと思っていた
体育会系で中学から大学までバレーボールをやっていました。365日ほとんど練習漬けの生活だったので、学校の行事などはほとんど参加できず、クラスでもあまり前に出るという感じではなかったと思います。東京で全国大会に出るか出ないかというくらいだったので強かったとは思うのですが、全部員で9人ほどだったので、とても大変でした(笑)。高校生の頃は試験前に部活が休みになる1週間でどれだけ効率的に詰め込んでテストの結果を出すかを考えていましたね。周りの友だちを見ても、運動部の子はどうやって効率的に覚えるか、物事を解決するかを考えていたような気がします。
当時将来はどのように考えておられましたか?
社会に出たらもっと外の世界を見たいと思っていたので、海外に出て自分の知見を広げて新しいものを見たいなといつも思っていました。
社長になられて、自宅の防災対策は変わりましたか?
変わりましたね。以前も水は備えてはいましたが、今では食品はもちろん、水は必ず多めに持つようになりました。あとは皆さん、トイレ(簡易トイレ)はちゃんと用意しておいた方がいいですよ! トイレに困ったという話は本当によく聞くので、食事のこと以外にトイレは大事です!
よく考える
社員にも日頃「説明できない数字はない」と話しています。例えば売上の数字がなぜそうなったのか、今起きていること、物事は何でも必ず説明できます。説明できないのは考えていないから。だからなぜ今それが起きているのか、きちんと考えることが大切です。
チームワーク
仕事は一人ではできないものです。防災でも「自助共助」と言われますが、この「共助」ですね。
BE POSITIVE
どんなことも前向きに考えてチームワークで行うことが大切です。
古澤社長
高校生へメッセージ
みんなに一番重要なのは、自分に何ができるかをもう一度考えてみてもらうこと。おそらく皆さんが生きている間に震度7レベルの地震は必ずどこかで起きます。だからあまりネガティブに考えずに、起きる前提で自分たちに何ができるかをいつも考えていればいいと思うんです。そして「自助」はもちろん、「共助」の気持ち、近所のおじいちゃんやおばあちゃんも含めて、周りに何ができるかということも今から考えてもらえるとありがたいなと思います。
取材を終えて
取材の日、尾西食品が行ったメディア向けの特別セミナー・パネルディスカッション「関東大震災から100年 フード・ダイバーシティから考える防災と備蓄」に参加。
地震学専門の慶應義塾大学環境情報学部の大木聖子先生をはじめ、パネリストの皆さんのお話はどれも知らなかったことばかり。200年に一度起きている M8レベルの地震、その後半の100年にはM7級の地震が頻発しているというデータから、関東大震災から100年目を迎える今必要とされる備えの大切さ、ムスリムの方々の食事情など、非常時に食の問題でどんな苦労をされる人がいるのかといった視点を学びました。その後、尾西食品の商品を試食!
りょうが(高3) 宗教の観点などのお話を聞き、尾西食品さんがフード・ダイバーシティを目指して様々な配慮がされた食品を開発されていることの重要性がわかりました。そんな商品が社会の役に立っていることが仕事の励みになっているというのも好循環でいいなと思いました。
ゆうき(高3) 大木先生が過去のデータや立証実験からこの先起きる地震のことを話してくださった講演に、自分は何も知らなかったんだなと実感しました。お仕事のやりがいは、社長はもちろん、社員の皆さんも同じように感じていらっしゃるというのも印象的でした。
そううん(高2) 宗教的なことで食の制限がある方、アレルギーを持っておられる方などの話を聞いて、新しい発見がたくさんありました。社長は災害に対して悲観的ではなく、「生きているうちに必ず起こることだから起きたらどうするかを考えている」とおっしゃっていて自分もそうしようと思いました。今日のお話を家族や友だちにも共有しようと思います!
るりか(高3) 今日初めてアルファ米を食べさせていただき、想像の何倍も美味しくて驚きました! 今日の取材で、大型地震は必ずくるので家を避難所にできるくらい自分たちの力でしっかり対策しないといけないんだなと思い、防災に対する意識が180度変わりました。