スタジオポノックの西村義明社長に聞く、高校時代・留学・そしてアニメの世界

スタジオポノック

スタジオジブリ退社後、スタジオポノックを設立した西村義明プロデューサー。

『メアリと魔女の花』に続きこの夏公開のポノック短編劇場『ちいさな英雄―カニとタマゴと透明人間―』にも注目が集まる!

アニメーション制作にはどれくらい時間がかかるんですか?

僕たちが長編アニメーション映画を作る時は、企画から劇場公開までにだいたい3~4年かかります。高校に入学して、卒業するまでに1作品できるかどうかですね(笑)。『ちいさな英雄』は、短編作品で各作品15分ほどですが、例えば『透明人間』には1年半ほどかかっています。去年公開した『メアリと魔女の花』の場合だと準備段階で1年半、作画イン(実写映画で言うクランクインのこと)から完成するまでが14ヶ月です。ジブリ時代に作った『かぐや姫の物語』は合計8年間もかかったんです(笑)。準備段階では脚本や絵コンテなどの作業に入る前に、どんな映画を作るか、その映画を世に出す意味は何かということを、監督と一緒に考えるところから始めます。映画の監督は時に不安になったりもするから、この映画は作る意義が必ずある、と監督や作り手の背中を押すのも僕の重要な役のひとつです。

社長はどんな高校生でしたか?

明るくて、暗い人でした(笑)。今回の『透明人間』のアイデアは、実は僕が高校2年生の時に音楽の授業で書いた『透明人間』という歌を思い出したことがきっかけなんです。「あれは誰もが知ってる街で噂の透明人間/足跡だけだよ/誰にも見えない透明人間」って(笑)。みんなが知っているのに、誰にも見えない。身長が高かったから目立つほうだったんだけど、当時は気持ちを表情に出さず、周りからは“クールな西村君”と呼ばれていたりしました。内面には情熱とか好奇心とかが溢れていたのに、外に向かっては違う自分を見せようとしていたんですね。そういう思春期を過ごしていました。それが『いまを生きる』という一本の映画を観たことで大きく変わりました。進学校に通っている少年たちがある先生がやって来たことで自分の中にあるものを解き放っていく映画なんですが、ラテン語の“Carpe diem.(今を掴み取れ)”というセリフがとても印象的だったんです。

なぜアニメの世界に入ったのですか?

中学2年生の頃に、子どもが大好きだったので、子どものために何かできる仕事をしようと決めたんです。大学に入る時はゲームクリエイターになりたいと思って電子情報工学に進んだのですが、勉強していくうちに何か違うなと思って、映画を作りたいと思い、映画ならハリウッドだと(笑)。当時もインターネットはあったけど、まだまだ情報は少ない状況で、まずは現地に行くしかないなということで日本の大学を辞めて留学しました。

大学を辞めて留学することに不安はなかった!?

不安はありましたよ。食べていけないかもしれないし。ただ、僕は、一番怖いのは、すべてが見えることだと思ってるんです。未来がすべて見えたら不安はなくなるけど、希望もなくなります。未来が決まっていないからこそ、人は希望を持てるんです。不安になるか、希望を持つかは、その人自身の考え方で決まるんですよね。それなら希望を持った方がいいでしょ? だからやってみないとわからないなと思って、大学を1学期で中退して2年間バイトをして400万円貯めて留学しました。本当は4年間映画の勉強をするつもりだったのですが、行ってみたらお金が足りなくなって(笑)。途中で別の学校に移りながら、映画のビジネス的な側面を勉強して3年半で帰国しました。

帰国後ジブリに入られたのはなぜ?

アニメーション映画の世界を選んだのは、子どもに何かを伝えられる作品を作りたいなと思ったから。そこでピクサーかドリームワークスかジブリ、どこに行こうかなと考えた時に、夢(理想)と悪夢(現実)をきちんと描いていたのはジブリとドリームワークスだったんです。ジブリは『となりのトトロ』を作りながら、一方で『火垂るの墓』も作っていて。日本に帰りたいという気持ちもあって、ジブリを選びました。ただ当時は入るのが難しいということも知らなかった。みんな働いているんだし、入れるだろうくらいの甘い考えでした(笑)

将来に悩む高校生にアドバイスをお願いします!

今皆さんが持っている知識と経験と情報では、世の中にどんな仕事があって、どんな仕事が自分にとって価値があるかなんてわからないし、向いているか向いていないかもわからないだろうから、とりあえず決めて、どこかの世界に入って仕事をしてみれば良いと思います。世の中には本当の自分に合う職業があるはずだ、なんて嘘ですから。本当の自分なんて変わり続けていくものだし、仕事の喜びの多くは内容ではなく、仲間だったりお客さんだったり家族だったり、自分じゃない誰かが与えてくれるものです。「夢を追いかけなさい」って大人たちからよく言われると思いますが、僕は「夢をいっぱい持ちなさい」の方がいいと思うんです。叶うか叶わないかって、運だったり縁だったりするし。大事なのは、なぜそこに行きたいのか、なぜそれが好きなのかを考えること。僕は映画をやっていこうと思った時に、“子どものために何かできる仕事をしよう”と思った中学2年の根源に戻りました。だから映画ではなくても、絵本に関わる仕事だったり、図書館だったりゲームだったり、子どもに関われる仕事なら何でも喜びを見出せると思うんです。そう考えると不幸にはならないですよね。例えばパン屋さんになりたいと思ったら、果たして自分はパンが好きなのか、作ることが好きなのか、それともお客さんが喜んでくれる顔を見ることが好きなのかをとことん考えてみる。自分の根源がわかってくると、選べる仕事が一気に広がると思います。高山樗牛という人がよいことを言っているんです。「自分が立っているところを深く掘れ。そこから必ず泉が湧き出る」って。まずは、自分が今思っていること、興味を持っていることを、深く深く掘っていくことが、その先に繋がる何かになると思います。

西村社長が心がけていることは?
「とことん考えること」
常にとことん考えます。例えばある着想を企画にしていく時には、なぜそれを作る必要があるのか、もう一人の自分や誰かと対話をしながら、頭の中でブワァー! とシミュレーションをしていきます。頭がヒートアップして後頭部が熱を持つくらい。
仕事に欠かせないアイテムは?
「話し相手」
話し相手は、自分の考えを正してくれます。今作の『サムライエッグ』ができたのは、とあるお母さんと息子さんとの出会いでした。小学3年生のシュンって男の子はたまごアレルギーで、触れただけでも命にかかわるくらい極度のアレルギーなんですけど、その子が「僕はこういう身体に生まれたけど、みんなが僕に優しくしてくれるから、僕は人に優しくできるんです」って言ったんですよね。その言葉を聞いた時に、年下とか年上とか関係なく、敬意を持ったんです。自分の中のものがガラガラと崩れて違うものが入ってくる瞬間って、必ず今を生きている人の生の声によるものです。スマホで検索して出てくるような情報では、映画は作れません。作品は頭だけで観念的なものを作っても仕方ないなと思っています。

ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-

『カニーニとカニーノ』
監督:米林宏昌
声の出演:木村文乃、鈴木梨央

『サムライエッグ』
監督:百瀬義行
声の出演:尾野真千子、篠原湊大、坂口健太郎

『透明人間』
監督:山下明彦
声の出演:オダギリジョー、田中泯

©2018 STUDIO PONOC

8.24(金)全国公開

OFFICIAL WEBSITE

「短編なのに15分ですっかり世界観に引き込まれます! ひとつのアニメーション映画が、企画されてから私たちの元へ届くまでにたくさんの時間と労力がかかっていること、「夢はたくさん持って」という社長のメッセージがとても印象的でした。初めて触れる考え方に、将来への不安が少し軽くなりました!」
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西村義明Yoshiaki Nishimura
‘77年、東京都生まれ。米国留学後、’02年、スタジオジブリに入社。『ハウルの動く城』(‘04)、『ゲド戦記』(’06)、『崖の上のポニョ』(’08)の宣伝を担当。長編では『かぐや姫の物語』(’13)、『思い出のマーニー』(’14)のプロデューサーを務めた後、スタジオジブリを退社。’15年、株式会社スタジオポノックを設立し、『メアリと魔女の花』(’17)をプロデュース。
MEMO
過去の「社長に会いたい」は旧ウェブマガジン「U-18 by ch FILES」をご覧ください