8/5(金)公開!映画『コンビニエンス・ストーリー』三木聡監督が語る本作のみどころとは?

どこにでもあるコンビニが、異世界への入り口だったら…?
「時効警察」シリーズや『転々』『俺俺』などで独自の世界観を作り出してきた奇才、三木聡監督が、映画評論家でプロデューサーのマーク・シリングと練り上げた映画『コンビニエンス・ストーリー』が8/5(金)に公開。
本作で描かれる目眩がするような奇妙で濃密な異世界、そして本作の見どころについて、三木監督に話にお話を聞きました。


『コンビニエンス・ストーリー』は映画評論家のマーク・シリングさんの企画から始まったそうですね。

三木 マークさんが「これ、映画になりますかね?」とプロットを送ってくださったんです。それを読んで、たしかにコンビニが持つ浮遊感みたいなものに外国人が触れると異世界感を感じるのかもしれないなと思いました。それが面白いと思って実際に映画にしてみました。マカオの映画際のマーケットに持っていったときも面白いねという反応がありましたし。ただ、プロットの時点からストーリーはよりドラスティックになるように変えています。加藤と惠子が登場することは変わっていないですが、加藤は脚本家ではなかったし、南雲もいなかったですね。

加藤が足を踏み入れてしまった異世界の世界観はどのように作られたのでしょうか?

三木 『サンセット大通り』(‘50)のような50年代のフィルム・ノワールの世界観を基本にして、それを2022年の自分たちなりに解釈して再構築していきました。なので衣装や音楽、美術セットは少しノスタルジックな印象を与えるものになっています。加藤とジグザグが住んでいる部屋のシーンでは古い16ミリのレンズを今のカメラに取り付けて撮影しています。そうすると解像度がおちて周辺にフレアがでるので雰囲気が出るんです。照明もLEDではありますが黄色がかったものを使ったりブラウン系の赤の出方にこだわって、全体の調子を作っています。

日本神話やギリシャ神話の要素も取り入れられていますよね?

三木 日本神話のイザナギやギリシャ神話のオルフェウスの話では、異世界が自分たちが生きている世界と地続きでありますよね。その地続き感をコンビニの世界で作ってみたいなと。昔、アメリカの治安が良くなかった時代に、街を歩いていていたらいつの間にか周りの建物の窓に格子が嵌っているブロックに足を踏み入れていたことがありました。あのとき感じた焦燥感や浮遊感を表現したかったんです。湯治場で行われている「とわ祭り」は、神事には死者の世界と現世を繋ぐものという要素があるので、異世界を表現するモチーフとして入れました。

異世界で加藤が出会う人物たちだけでなく、現実世界に棲む人々も個性豊かなキャラクターが揃っています。

三木 キャラクター作りは俳優との共同作業です。脚本の段階である程度キャラクター造形をして、キャスティングが決まってから、その俳優にアジャストしていく。表情の作り方や反応のタイミングとかは現場で芝居を見ながら調整していきます。キャラクターたちの突拍子もないセリフをリアルにして行くのは役者さんのクリエイティビティによるところが大きかったです。

先ほど加藤はプロットの時点では脚本家ではなかったとおっしゃっていましたが、脚本家に変更したのはなぜですか?

三木 この物語が妄想なのか、はたまた死ぬ間際の一瞬の夢なのかを曖昧にできる職業だからです。映画のストーリーをつくる職業だからこそ、この『コンビニエンス・ストーリー』自体が加藤の書いた話なのかもしれないと思わせることで、映画を見ている皆さんのいる現実とこの作品も地続きであるように感じてもらえる。皆さんがよく知っている職業で特別な説明がいらないというのもちょうどよかったんですよね。

そんな加藤の役に成田凌さんを起用された理由とは?

三木 現世と異世界の地続き感をリアルに表現できる俳優を探していたところ、プロデューサーから名前があがったのが成田くんでした。彼のお芝居は今風のリアリティがあると思います。役についてとても綿密に考えてきてくれて、動き方などたくさんのアイデアを出してくれました。

惠子役の前田敦子さんはいかがでしたか?

三木 天性の勘が鋭いのか、物事の本質にたどり着くスピードがものすごく早くて的確でした。もともと独特の存在感を持っているので、それをこの映画でも表現してほしいなと思っていましたが、彼女のお芝居は想像を越えてきました。本当にこの世の存在ではないようで、その違和感がすごい迫力なんです。

六角精児さん演じる南雲が誰もいない森の中でクラッシック音三木 楽を流しながら指揮棒を振っているのがとても印象的でした。

旦那が不在である理由付けであるとともに、異化効果(日常見慣れたものを未知の異様なものに見せる効果)を狙いました。黒澤明いわく、異化効果を表現するときには必ずなぜ音が鳴っているかを映像の中で示しておかないとだめだ、と。単にそのシーンにそぐわない音楽を付けているだけになってしまうからです。『野良犬』(‘49)で女性が弾いているピアノの音を背景に、刑事と犯人が撃ち合いになるシーンなんかがそうですね。加藤と惠子のラブシーンで劇伴と森で鳴っているクラッシックが綯い交ぜになることで、音楽と映画の関係性が地続きになっていくのが表現として面白いなと。

最後にこの映画のみどころを教えてください。

三木 わざといろんなものが曖昧になるように余白をたくさん残して作っているので、そこを自分で埋めるも良し、埋めるのを放棄するのも良し。この不思議な映画を“体験”していただきたいです。きっと新しい映像体験になるはずです。


STORY

スランプ中の売れない脚本家、加藤(成田凌)は、ある日、恋人ジグザグ(片山友希)の飼い犬“ケルベロス”に執筆中の脚本を消され、腹立ちまぎれに山奥に捨ててしまう。後味の悪さから探しに戻るが、レンタカーが突然故障して立ち往生。霧の中のたたずむコンビニ「リソーマート」で働く妖艶な人妻・惠子(前田敦子)に助けられ、彼女の夫でコンビニオーナー南雲(六角精児)の家に泊めてもらう。しかし、惠子の誘惑、消えたトラック、鳴り響くクラシック音楽、凄惨な殺人事件、死者の魂が集う温泉町……加藤はすでに現世から切り離された異世界にはまり込んだことに気づいていなかった。

映画『コンビニエンス・ストーリー』
  • 出演:成田凌 前田敦子 片山友希 岩松了 渋川清彦 ふせえり 松浦祐也 BIGZAM 藤間爽子 小田ゆりえ 影山徹 シャララジマ
  • 監督・脚本:三木聡
  • 企画:マーク・シリング
  • 配給:東映ビデオ

8月5日(金)よりミッドランドスクエア シネマ他にて公開