【イベントレポート】『世界の絵本読み聞かせ』〜絵本から見える世界の文化や課題〜

絵本には、その土地の文化や風土があらわれています。
ストーリーには様々な社会的背景や課題が反映されています。

そんな絵本を通じて世界の文化や課題に触れるYouTube Liveを開催。高校生がアジアとアフリカの絵本の読み聞かせを行いました。さらに、名古屋外国語大学の教員・学生による解説や、JICA海外協力隊経験者の現地での貴重な体験談もお聞きして、世界について学ぶことの大切さを知ることができるイベントになりました!

パネラー


佐藤都貴子先生
名古屋外国語大学 副学長/国際教養学科長/教授
研究テーマ:リプロダクティブ・ヘルス、女性のエンパワーメント、行動変容のためのコミュニケーション


加藤すばるさん
名古屋外国語大学大学院 グローバルコミュニケーションコース
研究テーマ:発展途上国の教育問題


桝田由衣さん
JICA海外協力隊としてスリランカにて環境教育プログラムの実施支援に関する活動を行う。


黒田篤槻さん
JICA海外協力隊として、ケニアにて児童拘置所における教育活動、ストリートチルドレンの保護活動を行う。


はな
高校2年生。『111本の木』の読み聞かせを担当。


かなえ
高校3年生。『アヤンダ おおきくなりたくなかったおんなのこ』の読み聞かせを担当。

MC


空木マイカさん
JICA中部なごや地球ひろばオフィシャルサポーター。

インドの実話から考える
ジェンダーと環境


1冊目の絵本は『111本の木』(文:リナ・シン 絵:マリアンヌ・フェラー 翻訳:こだま ともこ/光村教育図書)。村で女の子が生まれるたびに111本の木を植えることで男女差別と環境問題を解決へと導いた、インドで実際に起こったお話を描いた絵本です。

はな

『111本の木』というタイトルからは、どんなお話なのか想像がつかなかったのですが、読んでみるとそこにはたくさんの想いが詰まっていました。

絵本から見える
インドの文化と社会問題

インドってどんな国ですか?

インドは南アジアに位置し、13億人以上という世界第2位の人口を占める国です。産業の中心は農業ですが、宇宙開発にも携わるなど、工業・科学技術の発展にも力が入れられています。

加藤さん


インドが抱える問題とは?

まず1つ目は男女格差です。2006年に婚姻に関する法律が改正され、女子は18歳以上、男子は21歳以上でなければ結婚できないと定められています。しかし今でも女性は18歳になる前に結婚を強いられる慣習が農村地域などで続いていて、男性が学校で勉強したり友人と過ごしている間も、家事・育児に追われています。2つ目は環境問題です。都市部では排気ガスによる大気汚染、農村部では開拓や野焼きによる森林伐採が問題になっています。これらは健康被害に繋がったり、多様性の破壊による食料不足の原因になったりしています。

加藤さん

私は1990年代から2000年代にかけて、何度かインドに行きましたが、都市部の道路では早朝から夜遅くまで交通渋滞が続き、ホテルの外は排気ガスが充満していました。こういった男女格差や環境問題はインドだけで起こっているのではなく、世界各地で見られる問題です。

佐藤先生


これらの問題を解決する方法は?

この絵本では、村に女の子が生まれるたびに111本の木を植えることで両方の問題を同時に解決していますね。人間が自然環境を破壊することと、男性が女性を支配し権利を奪うことには関係性があり、それらを結びつけることで、環境と女性の両方を保護しようという運動を「エコフェミニズム」といいます。人間と自然との繋がりを明らかにし、女性と男性と自然がお互いに権利を守りながら共存することを目的としています。

加藤さん

男女格差や環境問題はもちろん、世界には他にも解決すべき様々な課題が存在します。そこで世界各国が課題を解決することを目指して掲げられている目標が「持続可能な開発目標」、いわゆるSDGsです。

佐藤先生

はな

高校でもSDGsについて学びました!私たちがSDGsの達成のためにできることってどんなことがありますか?
私たちの身の回りの小さなことは全て世界に繋がっています。まずはそのことに気づき、普段から心に留めておくこと。そして、公園に落ちているゴミを拾うなど、小さなことでも構わないので、行動に移すことが大切だと思います。

佐藤先生

空木さん

私たちも世界に繋がっているんだと意識することで行動は変わっていくからこそ、まずはそれを知ることが大切なんですね。

JICA海外協力隊
経験談

JICA海外協力隊として活動していた国は?

スリランカです。インドの隣にある国で文化や風習も近いところがありますよ。例えば絵本に登場する女性が着ている服、サリーはスリランカでも着られています。お茶の栽培が盛んで、日本でもスリランカの紅茶はよく売られていますね。みなさんご存知の『午後の紅茶』もスリランカ産の紅茶が使われているんですよ。

桝田さん


スリランカの抱える社会問題とは?

私がいた場所は、標高1,000メートルほどの山の中で、周囲の山はお茶畑も多く、とても緑豊かな綺麗な場所で、年中涼しいので避暑地となっていました。ただ、綺麗で涼しいからこそ多くの観光客がやってきて、ごみをポイ捨てしていくんです。そしてごみの焼却場もないので、一箇所に集めて置いておくだけ。ずっと残っていて臭いもするし見た目にもよくありませんでした。また、お茶畑の木は根っこがしっかり張っていないので、大雨が降ると地すべりが起こるという問題もありました。

桝田さん


桝田さんのされていた活動は?

学校を回って環境教育をしていました。環境教育というのは、自然環境について理解し、どのように活用して共存していくのか学び、持続可能な社会を保つために何を行えばいいのか考える教育です。絵本と同じように、小学校の低学年の子たちと一緒に、フルーツが成る木や木材として役立つ木を植えました。校長先生は「こうやって木を植えたら子どもたちが大きくなった時に食べるものに困ることがなくなるんだ」ととても誇らしそうに話していました。

桝田さん


子どもたちと校庭にあるごみを拾って、どれだけごみが散らばっているのかパッと見て分かるような活動もしました。みんな「綺麗に見えていた校庭にこんなにごみがあった!」とびっくりして報告してくれました。さらにごみの分別を教えるゲームも行いました。生ごみはいつか自然に還るけど、ガラス瓶はいつまで経ってもなくならない、ということをゲームを通じて学びました。それによってポイ捨てがなぜいけないことなのか、なぜこのようにごみがずっと残ってしまうのか、子どもたちは理解してくれました。このような活動を通して、美しい自然とスリランカの人たちが安心して暮らせる環境がいつまでも残ることを願っています。

桝田さん



コートジボワールの女性児童文学作家が描く
戦争の悲しさ


2冊目の絵本はコートジボワールの女性児童文学作家によって書かれた『アヤンダ おおきくなりたくなかったおんなのこ』(文:ヴェロニク・タジョ 絵:ベルトラン デュボワ 翻訳:村田 はるせ/風濤社)。戦争で父親をなくしたことで、成長することをやめてしまった女の子のお話です。

かなえ

アヤンダが悲しみから立ち直っていく姿に心を打たれました。自分とは違う境遇にいるアヤンダの気持ちをどう理解していいのか迷ったのですが、何度も読んでいるうちに、実は普段私たちが感じているものと共通しているんじゃないかと気付くことができました。

絵本から見える
コートジボワールの文化と社会問題

コートジボワールってどんな国ですか?

西アフリカに位置し、主にフランス語を使用する国です。カカオやコーヒーを生産する農業と、石油やダイヤモンドを取り扱う鉱業などが経済活動の中心となっています。

加藤さん


コートジボワールが抱える問題とは?

1960年にフランスから正式に独立した後、度重なる大統領の交代やクーデターが何度も起き、政治的不安が増大しました。内戦も勃発し、治安も悪化。内戦が終結した現在も安心して生活できるような状況ではありません。
さらに紛争孤児の問題もあります。紛争で親を失った子どもたちはお金を稼ぐために労働に従事したり、ストリート・チルドレンとなったり、最悪の場合は少年兵として自分の親を奪った紛争に参加してしまうのです。

加藤さん

児童労働の問題はコートジボワールだけのものではなく、中央アフリカにあるコンゴ民主主義共和国の炭鉱で働かされている子どもたちの存在もよく知られています。コンゴ民主主義共和国は鉱物資源が豊富で、その中にタンタルという鉱物があります。私たちが普段使っているスマホのコンデンサにも使われているタンタルは東南アジアに持っていくとコンゴ国内の約10倍で売れるため、その支配権を巡って紛争の原因にもなっています。このように高価な希少金属は「紛争鉱物」と呼ばれ、法的に取引が禁止されているのですが、未だに取引が行われています。

佐藤先生

かなえ

遠い国で起こっている問題も、実はその原因は私たちの身近なところにあるんですね。
ちょっと難しい話になるのですが、1989年に国連総会で採択され、1990年に発効された「児童の権利に関する条約」の27条には、子どもの「身体的、精神的、道徳的及び社会的な発達のための相当な生活水準についての権利」(27条)が謳われています。これらの権利実現のためには、世界が一丸となって、過酷な環境下に置かれた子どもたちを生み出す主原因となっている紛争や貧困問題に取り組む必要があり、そのために有効な手段はSDGsの実現です。だからこそ、私たち一人一人が高い意識を持って、SDGsを実現させることが大切なんです。

佐藤先生


JICA海外協力隊
経験談

JICA海外協力隊として活動していた国は?

ケニアです。コートジボワールと同じアフリカの国なので似通っている部分もありますが、もちろん違いもあります。首都ナイロビを始め、都市部はとても発展していますが、場所によっては道に牛がいることも!野生動物もたくさんいて、59ある国立公園や自然保護区に行けば様々な動物を間近で見る事ができます。港町モンバサが、昔から東アフリカの貿易の中心地だったこともあり、ヨーロッパ、中東、インドなどからきた様々な文化が現地の文化と混ざり合って、今のケニアの文化が作られました。僕は特に「年上を敬う」「客人をもてなす」「助け合う」という文化がお気に入りです。

黒田さん

かなえ

カラフルな布がおしゃれです!
仕立て屋さん文化が根付いていて、街のテイラーさんに布を持っていってオーダーをするのが一般的なんですよ。僕の着ているこの服も現地の布で作ってもらったものです。

黒田さん

私もケニアに住んでいたことがありますが、一年中軽井沢にいるような過ごしやすい気候でした。東アフリカから西アフリカまで横断した際は、国ごとにだんだんと文化が変わっていくのがとても興味深かったですね。

佐藤先生


黒田さんのされていた活動は?

ケニアの西側エルドレットの児童拘置所で学習支援と環境作りをしていました。児童拘置所とは罪を犯した子どもやストリートから保護された子どもが一時的に拘置をされる施設です。もともととても成績が優秀であったけれど両親の離婚がきっかけで犯罪に手を染めてしまった子、ストリートで手作りのビーズ細工を売っていた子など、さまざまな子どもたちが常時60〜100人くらいいました。

黒田さん

ある日、学習でストリートチルドレンを取り上げると、彼らに「ササ、ウナファニャニニ?(じゃあ、あなたは何をするの?)」と言われたのをきっかけに、ストリートチルドレンの保護にも着手しました。実際僕が保護できたのは3名だったのですが、3名ともレスキューセンターから脱走してしまいました。というのも、ストリートの生活に慣れてしまっていたので、管理された生活ができなくなっていたんです。この分野の活動の難しさを痛感しました。アフリカは今や飛行機に乗れば1日で着いてしまう遠くて近い国です。まずは知ることから始めて欲しいなと思います。

黒田さん

空木さん

海外協力隊は与えられた仕事をするのではなく、現地で課題と向き合うので、本当に必要な活動ができるんですね。


世界について知ることは、
私たちの生活も豊かにしてくれる

はな

このイベントを通して、世界で実際に起こっているにも関わらず、今まで知らなかったことがたくさんあるんだと気付かされました。高校生が実際に現地に行くことはなかなか難しいですが、まずは知ること、考えること、そして小さなことでも構わないのでアクションを起こすことが大切だなと思いました。

かなえ

遠い国の話だからといって放置するのではなく、自分事として考えることが大切だと思いました。『アヤンダ おおきくなりたくなかったおんなのこ』の翻訳者・村田はるせさんもあとがきで「私たちがおいしいチョコレートを食べられ、インターネットが自由にできるのは、アフリカからの農産物や資源を豊富に輸入しているからです。しかしアフリカの国々は、そこから利益をじゅうぶんにうけているとはいえません。世界はつながっています。この不公平さについてみんなで考えていくことが、戦争をふくめたアフリカの国々のさまざまな困難をなくすことにつながっていくでしょう。」と書いています。自分ひとりで考えるだけでなく、もっと学校の友だちと話し合う機会があればいいな。
僕も中学の頃に国際協力に興味をもち、まずは知ることから始めました。今回のように、皆さんに世界について知ってもらえるきっかけが増えると嬉しいです。

黒田さん

こんな風に絵本を通じて世界について知ることで、皆さんの将来も広がっていくのではないかと思います。

桝田さん

普段高校生の皆さんと国際協力について話し合うことも、実際に活動をされていた方の体験談をお聞きすることも、なかなか無いなので、とてもいい経験になりました。見てくださっている皆さんも国際協力や世界の問題に興味を持っていただけたなら嬉しいです。

加藤さん

自分の外の世界で何が起こっていて、それが自分にどんな影響を及ぼしているのかを想像することはグローバル社会を生きる私たちにとって本当に大切なことです。外との繋がりを増やし、自分の世界を広げていくことは、私たちの生活を豊かにしてくれます。そして、若い皆さんがそのために行動できる人に成長していっていただけると嬉しいです。

佐藤先生

空木さん

絵本から世界を知るというイベントでしたが、そこから1歩進んで、私たちと課題のつながりを感じ、そこから学び、行動できるといいですよね!

名古屋外国語大学


特色ある教育システムを通して真の国際人を目指す学生が集う中部地区唯一の外国語大学。多彩な留学プログラムや留学にかかる費用を大学が負担してくれる「留学費用全額支援」制度など留学を志す学⽣を⼒強くサポートしてくれます。

佐藤先生のように、実際に活動やお仕事をされていた先生方から実体験に基づいた学びができる大学です。私はアメリカに9ヶ月間の留学に行きましたが、実際に現地に行くことで、現地の文化や人々の考え方を肌で感じることができ、自分が常識だと思っていたことがそうではなかったと気付かされました。海外の文化を学んだことで、自分が成長することができたと感じています。

加藤さん

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独立行政法人 国際協力機構(JICA)中部センター

日本の政府開発援助(ODA)を一元的に行う実施機関として、開発途上国への様々な国際協力を行う。JICA中部は東海4県の国際協力の総合窓口・活動拠点となっています。