「社長に会いたい」 レンタルなんもしない人 森本祥司さん|「自分で決められないから、周りに決めてもらう方が良い」

レンタルなんもしない人 森本祥司さん

今月はフリーランスとして “なんもしない” 自分をレンタルするという発想の斬新さからドラマ化にも至り話題を呼んだ、「レンタルなんもしない人」森本祥司さんにお話を伺いました!

 

まずは、お仕事内容を教えてください。

“なんもしない” 僕を貸し出すサービス
依頼理由はさまざま

名前の通り、なんもしない人を貸し出すというサービスです。“なんもしない人” というのは、僕のことです。依頼された場所に行って、なんもしない…なんもしないというのは、まったく無になるというわけではなく、人間として最低限の飲み食いとか、簡単な受け答えはします。今やっているように、質問をされたらそれに対して自分のわかる範囲で答える、それ以外は何もできかねます、としています。東京の国分寺駅を起点にして、国分寺駅からの交通費と飲食等が発生した場合にはその飲食料、依頼料として別に1万円もらっています。料金設定は変更されることもあります。

依頼料の設定に何か基準はあるんですか?

特に基準はなくて、その時の気分だったり、気候の影響もあります。冬の寒いのは苦手なので、冬場は1万円になることが多いです。虫みたいな感じですね。

 

森本さんはどんな高校生でしたか?

部活も勉強もそこそこ、
自分を持たず、人に左右されていた

学生時代に何をしていたかってぼんやりとしか思い出せないんですよね。高校の時とか、それほど決まった過ごし方をしていなくて、いわゆる陽キャとか陰キャとかわかりやすい感じではなく、日によって一緒に行動する人が違っていた感じだったかなと思います。この日は部活の人たちと行動しているから部活の人たちの空気でどこかへ行ったり、この日はたまたま塾の知り合いと行動しているから勉強したり、といった人に左右される感じでした。

何か夢中になっていたことはありますか?

何も打ち込んでいなかったですね。弓道って高校から始める人も多いからいけるかなと思って弓道部に入ったんですが、手先が不器用すぎて袴が着られなくて。それで嫌になって行かなくなって、2年生の時に友だちに誘われて、当時休部状態だったハンドボール部を復活させようぜという青春漫画みたいなノリがあったので参加してみたんですが、それほど頑張ったというわけではなかったです。部活もそこそこ、勉強もそこそこ、家ではプレステをしたり、という感じでしたね。

 

大学の進路はどのように決められましたか?

大阪大学理学部へ進学
将来のことは考えていなかった

勉強はわりと好きな方だったので、学力的に良い大学に行きたいという気持ちは中学生頃からあって、高校で志望校を固める時に、その時の学力で目指せる大学ということで、当時関西に暮らしていたので父からもよく話を聞いていた大阪大学に決めました。理学部の物理学科に入ったんですが、なんとなくで…理学部に入る多くの人がそうだと思うんですが、僕もその頃は研究した先に科学の常識を塗り替える発見があるかもしれない、という気持ちに近かったかもしれません。

なんとなくで進路を決めたことに怖さはなかったですか?

僕は逆に、自分で決められないから周りに決めてもらった方がいいという感覚なんです。自分で決めることの方が怖いんですよね。自分が決めると、何か失敗した時に自分の選択が間違っていたとショックを受けちゃいそうで。でも周りの影響で決めたのなら、失敗しても周りのせいにできるので。

 

出版社を辞めて今の仕事へ。辞める勇気はどこからきたの?

固定された仕事内容や人間関係…
会社で働くことに居づらさを感じた

正確に言うと会社はやりたいことがあって辞めたわけじゃなく、とにかく会社がしんどくて辞めたので、勇気というより楽な方にいった感じなんです。出版社を辞めた時は次が何も決まっていなくて。だからフリーランスとして仕事をもらいながら生活を始めました。

会社で働くことにはどんな違和感を感じたんですか?

自分に向いていないな、居づらいなというのをいろんなところで感じて。例えば毎日同じことを繰り返していくとか、毎日同じ人と顔を合わせてやりとりしていくとか、仕事の内容や人間関係が固定されていることが自分の性格には合わなくて。会社なのでいろんな人とチームワークでやっていくんですが、僕は協調性がだめなので、それなら個人プレイの方がよさそうだなと思ってひとりになったところもあります。

 

依頼の内容にはどんなものがありますか?

友だちには言いづらい、
関係ない “誰か” が必要とされる時

まず「一人では入りづらいお店に一緒に行って欲しい」という依頼が一番多いですね。そして「ライブやイベントの空席を埋めて欲しい」という依頼。「周りの人には言えないような話を聞いて欲しい」というものも多く、人によって言えない理由は違うんですが、敢えてなんもしない人に聞いて欲しいというのは、友だちだと話すことによって引かれるんじゃないか、嫌われるんじゃないか、こんな重い話を聞かせてしまうのは申し訳ないなど気を遣ってしまうようなんですね。よかれと思って言ってくれるアドバイスも要らなかったりすることもあるし。あとは仕事だったり、勉強、部屋の片付けなど「一人だとサボってしまう作業を見守って欲しい」という依頼もあります。

中でも特に印象的だった依頼はありますか?

たくさんあるのでピックアップは難しいんですが、ツイッターでの反響が大きくて印象に残っているのは、東京から大阪に引っ越す依頼者で、東京駅から新幹線に乗る時に、よくドラマとかで見る友だちが手を振りに来るみたいなシーンを再現したいということで行きました。友だちだとしんみりし過ぎてしまうからということで。「何もしなくていいですよ」とは言われていたんですが、自然と手を振っちゃっていましたね。あとは「離婚届を提出するのに付いて来て欲しい」という依頼。気が重いイベントだからこそ、関係ないよくわからない人に付いて来てもらって、変な思い出にしたいということでした。

初めての依頼はどんなお仕事だったんですか?

初めては美大の学生さんで、「風船を持って散歩しているところを写真に撮らせて欲しい」という依頼でした。作品に使う素材にしたかったみたいで。同じ日に、「一緒にラーメンを食べて欲しい」という依頼もあって。電車に乗るのが苦手な人で、地元の最寄駅でラーメンを食べたいけど、そこまで友だちを呼び出すのはちょっと…ということでした。

すごい、初日から2件も依頼があったんですね。森本さんはその場その場で臨機応変に対応するのが得意だったりするのでしょうか?

そうではないんですよね。その場で全部対応していくというキャラクターにもなっているので、もしかすると側から見るとそう見えているかもしれないんですが、自分としては会社で勤めていた時とか、まったくその能力はなかったです。会社って臨機応変さを求められたりするんですが、僕の場合はその能力は最下位くらい。“気が利かないな” という感じに思われていました。

森本さんの自己プロデュース力の高さは、高校生の頃からですか?

高校生の頃は全然意識していなかったですね。今でもそんなに意識しているわけではないんですが。ただ自己プロデュース力と言えばカッコいいですが、人からどう見られるかを気にするタイプだと思うんです。そういう意味では、学生の頃からそうだったとも言えます。きっとそれを意識的にすれば、自己プロデュースということになるんだと思います。

今の青い帽子にリュック、というスタイルは意識的にですよね?

そうですね、これは意識的にです。

 

お仕事を受ける基準はありますか?

飲み食いと簡単な受け答え以外はできません、というのが唯一明確な基準ですね。あとは自分の気分で、嫌だなと思えば断るし、嫌じゃないなと思えばスケジュールさえあえば引き受けています。断ることもあるというのは皆さんあまり想定されていないようで、びっくりされることもあるんですが。DMの文面から “この人怖いな” と思えば断ることもあります。

今回僕たちの送ったDMは大丈夫でしたか?(笑)

もちろん。あんなにしっかりと書かれた文章で怖い人はいないと思います。

面白いですね、文面だけで判断するんですね。

文面からその人となりを想像するのは得意かもしれないです。だいたいは野生の勘のような感じですね。

 

依頼者さんとの絶妙な距離感はどうやって取られているんですか? 僕ならベラベラ喋っちゃいそうです。

人との距離感は
自分にとってストレスのない状態に

距離感を敢えて取っているのは、それが自分にとって好きな距離感だからで、無意識だとそうなっちゃうんです。グイグイいく人はそういう場面で社会の役に立っていけばいいと思うし、自分はむしろそれができなくて社会になじめなかった方なので。無理をしないで自然にしたらグイグイになる人もいるし、自分のようにポツンの人もいるし、それを仕事に結び付けたら、ストレスなく仕事ができていく状態になるんじゃないかなと思います。

 

注目されるにつれて危険な依頼とユニークな依頼とどちらが増えた?

ユニークな依頼も今は出尽くし、
本当に必要な時に依頼されるように

どちらも増えましたが、危険な依頼はそんなに多くはないです。今はブームみたいな空気感は過ぎて、「人に言えない話を聞いて欲しい」など、人が必要な時に必要な依頼をしてくれている感じですね。これはこれですごく嬉しいです。スーパーやコンビニなど日常的な普通のサービスって、面白さは必要ないじゃないですか。必要だから存在する、という。僕はもともとこの仕事を始めた時に、なんもしない人に価値があるのかということに興味があったんです。物珍しさで話題になって届くようになった面白い依頼というのは、それとはまた違うなと感じていたので、本来興味を持っていた部分に焦点が当たってきたような気がします。

 

5年前に始めた頃と今で働くことに対する考え方に変化はありましたか?

いろんな境遇を持つ人の話を聞くうち
人とは違う自分のことも受け入れられるように

働くことについては、特に変わるものもないんですが、いろんな人に会うことによって考え方は変わった部分があるのかなと思います。人には言いづらい話を聞いて欲しいという依頼の中で、未成年の時に人を殺したことのある人がいて、少年院を出たけど、社会に復帰する時に改名したり、過去の経歴を明かすこともないから、自分のアイデンティティが何もないという話だったんです。詳しい内容は明かされずに会いに行って、その話を聞くまでは全然人を殺したような人には見えなかったんです。街ですれ違っても普通にしか見えない。でも実は普段すれ違う人もすごい悩みを抱えていたり、すごい経験をしているということはあるんだなと思うようになりました。

あと、セクシャルマイノリティのひとつで、「Aセクシャル」(他人に対して性的欲求を抱かない)、「Aロマンティック」(他人に対して恋愛感情を抱かない)という人から話を聞いたことがあるんですが、それってもう僕の常識外で。音楽とか世の中のほとんどすべてのものが、恋愛があることを前提として生まれているから、これだけは人類共通のことだろうと思っていたけど、それがない人もいると知った時に、自分の中の人と違うなと思うところって、社会はみんなこうなのに自分だけこういうのは良くないなとか思って見ない振りをしてしまっていたところがあったんですが、いろんな人がいるんだから、自分のそういう特殊性もひとつの性質として堂々としてればいいんだなと受け入れられるようになりました。

 

高校時代の自分に「今こんな仕事をしているよ」と伝えたら何とおっしゃると思いますか?

過去の自分は完全に “他人”
どんな感情で生きていたか思い出せない

難しいですね。リアルに想像すれば、(目の前にいる将来の自分のことを)絶対に夢だと思って信じないだろうし。そういうSF質問苦手ですね…ということが今判明しました。「過去の自分が何と言うと思いますか?」という質問って、過去の自分に感情移入しないといけないと思うんですが、過去の自分って完全に他人な感じがするんですよね。過去の自分がどういう感情で生きていたかって全然思い出せなくて。だから全然わからないですね。


▼ 森本さんが心掛けている3つのこと

  1. あまり何も考えないこと

    先のことを考えて前もって計画を立てたり、準備をしたりしないこと。人ってどうしても先々の予定に準備をしたくなりますが、これは敢えてしないように心がけています。準備していないからこそ起こることが楽しみという感じですね。今回も取材前に質問内容を聞いていましたが、何も考えていませんでした。

  2. 心がけることは1つに絞る

    そんなにたくさんのことは覚えられないから、心掛けることは1つ目の“何も考えないこと”に絞っています。道徳やマナー、こうした方がいいといった教訓って、知れば知るほど自分の中に溜まってきて荷物が重くなって、身動きが取れなくなってくるんじゃないかなと思います。

  3. 自分が言った言葉に縛られない

    例えば上の2つに関しても、言った手前そうしなければいけない、みたいにはならないようにして、その場その場でその時の気分に忠実に動いていくようにしています。自分が決めたことでも、それは過去のことだから。

 

森本さんの朝ごはん&モーニングルーティン

森本さん

歯磨きをしてトイレに行って着替えて…ということは普通にしますが、特に決まっていることはなくて、起きる時間も日によって違ったりします。スマホは起きてすぐにチェックします。当たり前のようにスマホは四六時中見ていますね。朝ごはんはその日のお腹の具合や気分によって食べることもあるんですが、何か飲むくらいで特に食べないことが多いです。



高校生へメッセージ

インタビューなどでよく聞かれるんですが、こちらから言えるメッセージって特にないんです。例えば受験を控えている高校生と言っても、やっぱりめちゃくちゃいろんな人がいるので、そのいろんな人を一括りにしてメッセージを送るということは僕にはできなくて。例えば個別にその人の境遇などを聞いて、それに対しての反応なら言えるかもしれないんですけど。

高校生から依頼を受けたこともありますか?

ありますよ。DMのみの依頼だったので、実際には会っていないんですが、学校になじめなくて不登校で、でもちゃんとしないといけないような気がするから、一言「頑張って」と言って欲しいというものでした。これも依頼料1万円もらいました。でも依頼者を見ていると、お金を払うということ自体に意味があるようですね。お金を払ったからこそ残るものもあるようです。


みわ

今の高校生ってきっと大人たちから「夢は何ですか?」とか何度も聞かれて、「何かしなきゃ」と思っている子って多いと思うけど、今日の話を聞いて、すごく気持ちが軽くなりました。

みゆ

自分は自分でいいんだ、苦手なことは苦手なままでいいんだよと言われているような気がしました。


森本祥司Shoji Morimoto
‘83年、兵庫県出身。大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻博士前期課程修了後、教育系の出版社へ就職。その後退職し、コピーライター等を経て、’18年6月よりTwitterをプラットフォームにした「レンタルなんもしない人」のサービスを開始。瞬く間にメディアからも注目を集め、’20年にはNEWS増田貴久主演でドラマ化された。著書に「レンタルなんもしない人のなんもしなかった話」(晶文社)、「〈レンタルなんもしない人〉というサービスをはじめます。」(河出書房新社)など。