社長に会いたい|Vita はらゆうこ社長に聞く、撮影現場でのフードコーディネーターのお仕事の裏側

はらゆうこ

株式会社Vita
はらゆうこ社長

これまで500本以上のドラマや映画作品に携わってきたという、フードコーディネーターのはらゆうこさん。Vitaの事務所へお邪魔して、撮影現場でのお仕事のことやはらさんの高校時代をお聞きしてきました!

 

まずはどんな会社か教えてください!

フードスタイリングからレシピ提案まで
食に携わること全般を手がける

食に携わること全般を行っている会社です。スタッフクレジットなどで皆さんの目に触れることが多いのは、おそらくドラマや映画の食のシーンに携わるお仕事だと思います。あとはCM。出川哲朗さんが美味しそうにお茶づけや麻婆春雨を召し上がる永谷園さんだったり、綾瀬はるかさん扮するキッコさんとキッココちゃんのキッコーマンさんのCMだったり。他にもレシピ提案やインスタグラムのお写真用のお料理のスタイリング、飲食店のコンサルタント、YouTuberさんやインスタグラマーさんなどのレシピ本出版のお手伝いをすることもあります。

 

撮影の裏側ではどんな準備をしているの?

ドラマや映画の現場では
制限だらけの環境で料理を準備!

作品によってさまざまですが、まず事前にドラマや映画をプロデュースする立場の方か美術担当の方から依頼が入ります。そしてどういった料理が必要かなど作品の台本が送られてきて、スタッフみんなで読み込み、献立を考えていきます。お料理は小道具などと同じように美術さんが担当して、中でも“消え物”と呼ばれているんです。消えてなくなるものだから。

撮影現場は、水道やガスのあるスタジオばかりではなく、山の中や水辺といったロケで撮ることもあるし、最近ではハウススタジオと言われる普通のお家のような場所で撮ることも多いです。お家のキッチンって普通一つなので、お母さんがキッチンで料理をして家族で食事をするシーンを撮る場合、そのキッチンは使えません。

そんな場合は、お風呂場で準備することもよくあります。お風呂の蓋を閉めて、そこにテーブルを入れて、カセットコンロを準備して(笑)。だいたい現場には2時間ほど前に入りますが、その前に別シーンの撮影をしていると、本番中は「トントン」とか「ジュー」とか音が出せないので、事前に事務所などで作って持って行き、現場では最終的な仕上げをするということが多いです。

 

撮影で一番大変なことは何ですか?

お料理をベストな状態で出す
タイミングの計算が難しい!

湯気が出ている食べ物ってやっぱり美味しそうに映るので、監督さんも「湯気が欲しい」とおっしゃるんですが、人が食べられる温度って、普通は60度くらいなんです。熱くても70度くらい。でも70度前半くらいだと湯気が見えなくて。出川哲郎さんは80度くらいでも「大丈夫です!」とおっしゃって召し上がるんですけど(笑)、役者さん皆さんがそうではないですし、猫舌な方もいらっしゃいますしね。置いて撮影するだけのお料理であれば熱くしていても大丈夫なんですけど。

現場ではカメラマンさんや照明さん、音声さんがいて、全体を見ている監督さんや助監督さん、役者さん、役者さんにつくメイクさんや衣装さん、さまざまな方がいらっしゃる中で、お芝居のタイミングを見計らって美味しそうに見える湯気が上がるように出すことを考える必要があるので、そこは本当に難しいなといつも思っています。

お料理ができるからできる、というお仕事ではないんですね。

会社のスタッフも料理が好きでフードコーディネーターを目指しているメンバーですが、やっぱり最初に撮影現場に行くとみんなびっくりしていますね。

 

印象的だったドラマの思い出はありますか?

気合いを入れて臨んだシーンが
本番で使われないことも!

「100万回言えばよかった」の最終話では、ナイフで割るととろりと開くオムライスを作ったんです。久々だったので事前に結構練習もして。佐藤健さんは器用な方なので、「うまく乗せてくれたら一発で決めます」と言ってくれたので、私も「これでいけると思います!」と佐藤さんに渡して、パッとキレイに広がったんです。撮影もOKが出て、周りのスタッフも「美味しそうでした!」とか言ってくれたのですが、本番の作品を見たら使われていませんでした!(笑) 他に重要なシーンがあって、編集していくうちに削るしかしょうがなかったんでしょうね。ディレクターズカットに入れてくださっていましたが、そういうこともよくあります。

「VIVANT」は、監督が料理場面にもとてもこだわられていて、何度も作り直したりもしました。とても厳しかったですが、見てくださった方から「目玉焼きが美味しそうだった」とか「お赤飯が食べたくなった」とか言ってくださることが多くて、やらせていただいてよかったなと思っています。

 

スチル撮影と映像撮影の
違いはありますか?

じっくり進めるスチル撮影と
スピード感の中で進む映像撮影

スチールのお仕事は比較的落ち着いたペースでカメラマンさんやスタッフさんたちと一つひとつ確認しながら進めることができます。一方で動画はスピード感の中で戦っている感覚が強いですね(笑)。「直したい」と思ったらその瞬間に入らないと現場が進んでしまうので、私も戦闘力が高めになっています。舞台裏は本当に必死です。料理ドラマであれば比較的タイミングを待っていただくこともできますが、そうでない場合は、お芝居や役者さんの感情に合わせていかないといけないですし。毎日「もっとこうしたかったな」「もう少しタイミングをはかれていたら、湯気が出せたな」と思うことがたくさんあります。「完璧」と思える日はほとんどないですね。

完成した作品はご覧になりますか?

リアルタイムでは無理でもTVerなどでチェックはするようにしていますが、見ると落ち込むので、本当はあまり見たくないですね(笑)

 

はら社長はどんな高校生でしたか?

明るく元気!
テニス部の厳しい練習で鍛えられた

地元は埼玉県で、テニス部だったので、髪もベリーショートで、全身真っ黒に日焼けしていました。通っていた松山女子高校は私の上の先輩くらいまですごく強くて、朝6時半くらいから練習、春合宿と夏合宿がありました。顧問の先生の指導も厳しくて、一度1年生の時に辞めようと思って両親に言ったら、「一度やりかけたことはまず3年やりなさい。辛くて逃げるような辞め方はしてはいけない。3年経って、自分がいないと周りが困るくらいになったら辞めてもいい」と言われて、続けることにしました。私のメンタルの強さはその頃培われたのかもしれません。クラスの中では元気でよく喋って、一番前の席に座って先生をいじってるような生徒でした(笑)。小さい頃から料理は好きで、両親が働いていたので、6歳下の弟のためによく作っていました。

 

公務員をやめて食の道へ。
不安はなかったですか?

スタートも遅く厳しい言葉も受けた
でも後には引けなかった

私は8年間公務員をして、仕事をやめて赤堀料理学園に入学し、30歳から校長の赤堀博美先生のアシスタントになりました。料理は好きだったし、それなりに学んできたつもりだったのですが、先生からは「今のままではあなたに仕事はできない」と言われて。その時は自分がやりたかった仕事だし、公務員も辞めて後に引けないし、やるしかないなという気持ちでした。その後アシスタントを辞めて2年ほどは飲食店のアルバイトをしながら、“諦めようかな”と悩んだ時期もあったのですが、ある時お仕事の依頼をいただいて。それからは、仕事の相談には一つひとつ丁寧に精一杯向き合い、次の仕事につなげてきたかなと思います。


▼はらゆうこ社長が心掛けている3つのこと

  1. 仕事を断らない

    スケジュールが不規則なので、スタッフの体調にも気を付ける必要はありますが、できるだけ「Vitaとお仕事がしたい」とご依頼くださるお声がけには、お応えできるように調整しています。これは仕事がなかった時期を経験したからかもしれません。

  2. 「できない」と言わない

    私たちって、撮影の現場でも“もっと美味しそうに見せるためにどうするか”など、どうやったらできるかを考える仕事だと思うんです。だからお客さんから相談されたことにもすぐに「できないです」とは言わず、前向きに考えるようにしています。

  3. 「自分の料理」だと思わない

    撮影で作るお料理は、クライアントさんや監督の作品のために作っているので、自分たちが作っているけど自分の料理ではない、ということを忘れないようにしています。私たちはお料理が美味しそうに映るよう、陰で動く役割ですから。

 

はら社長の朝ごはん&モーニングルーティン

はら社長

娘が一人いて、夫も撮影業界でお互い時間が読みづらいので、1週間ずつのスケジュールを確認しながら交代で保育園の送り迎えなどをしています。私が娘を送る日は、朝起きて娘と一緒にごはんを食べ、送ってから事務所で仕込みや作業をするか、そのままスタジオやロケに行きます。撮影の日は、お腹がいっぱいになると集中力が落ちるので、朝や昼はおにぎりを少しつまんだり味見をする程度で、基本的にあまり食べず、仕事が終わってから夜しっかりと食べます。だから音声さんに「よくお腹鳴ってるよね」と言われることもあります(笑)



高校生へメッセージ

フードコーディネーターって、この道を行けば必ずなれるという職業でもなくて、元々美容師だった方とか、いろんな経歴の方がいらっしゃるんです。だからいろんななり方があって、それぞれに個性があって、みんな自分のベストを毎日探し続けています。どうやってなるか、何をしたいかは自分で考えるしかないんですが、私は毎日生きていることすべてが重要だと思っています。私も8年間公務員をしていた頃に学んだ行政的な知識や法律、習ったことは今活きていて、何一つ無駄にはなっていません。成長にかかる時間は人それぞれですが、私は“この仕事をやりたい”という気持ちが強い人は絶対になれると思っています。まずは自宅で料理を作ったり、SNSを使って自分の料理を表現してみたり、美味しい料理を食べに行ったり、自分なりにいろいろやってみてください。職業としてどういう料理の表現が自分はしたいのかが見えてくるかなと思います。健康な体と心で、ポジティブに考えることが大事です!



取材を終えて

Vitaさんのオフィスは、スタッフの皆さんが翌早朝から2件あるドラマの撮影に使うお料理の準備の真っ最中。映画やドラマのお仕事が並行しているので、スタッフの皆さんで手分けして、買い物やお料理の仕込み、撮影現場を回しておられます。特に年末にかけてはCM撮影なども多くなるとのことで、そんな大忙しなスケジュールの中、インタビューに答えていただきました。

ひなの(高3)
ずっと管理栄養士を目指してきましたが、高校生になってドラマのクレジットのはらさんのお名前からフードコーディネーターの仕事を知りました。念願叶ってお話が聞けて、本当に嬉しかったです。どんなことも常にどうしたらよいかを前向きに考える、はらさんの姿勢に感動しました。

かな(高3)
ドラマ「最愛」では、重いテーマの中、みんなで食卓を囲むシーンで救われ、お料理の見せ方でこれほど作品を演出する力があるのかと驚きました。撮影現場は想像以上に大変そうですが、毎回ベストを求めてチャレンジする姿は本当にカッコよくて、これからはVitaさん関連の作品を追いかけてしまいそうです(笑)

ゆうき(高3)
高校の部活動で厳しい顧問に出会い、公務員をやめて飛び込んだ料理の世界でも厳しい先生に師事してきた、はらさん。どこかで心が折れてもおかしくなさそうなのに、すべての方々との出会いを活かしてこられたのは、本当にすごいし、僕も見習いたいと思いました。

はらゆうこYuko Hara
‘76年、埼玉県出身。8年間の公務員生活を経て、赤堀料理学園に入学。6代目校長・赤堀裕美氏に師事し、約3年半のアシスタント経験を経て独立。独立後はフードコーディネーターとして各種大手流通のメニュー開発、レシピ撮影をはじめ、食品メーカーのCM、PVの料理作成やコーディネート等を手掛ける。2010年、株式会社Vita設立。各局TVドラマや映画の劇中料理作成、フードコーディネートなど、携わった作品の数は500本を超える。