伝説のマーケター森岡毅社長「“好きなこと”を深めた先に、必ず自分にしかできない仕事がある」

森岡毅

北海道版・関東版・東海版・関西版・中国版・九州版
こうた(高3)・るか(高3)・みずき(高2)

株式会社 刀 森岡毅 社長

 かつてユニバーサル・スタジオ・ジャパンが直面していた経営難をV字回復させた伝説の戦略家・マーケターの森岡社長にご自身の会社のことをお聞きしました。
 「私のことは森ちゃんとか森岡さんと呼んで!」と緊張するスタッフに気さくに声をかけてくださった森岡社長。
 話はいつしか高校生の進路相談に…!


まずは、どんな会社か
教えてください!

マーケティングのノウハウを
企業に売る会社

 簡単に言えば、マーケティング、つまり売上を激増させるノウハウを売る会社です。マーケティングを使うと、より消費者の要望に叶った商品やサービスを作り出し、売上を上げることができます。USJを退社して、このノウハウを日本に広めるために、仲間と共に会社を立ち上げました。

 刀って、『ONE PIECE』の「麦わらの一味」みたい感じなんです。船長はボンクラなんだけど、優秀な剣豪がいたり、航海士がいたり、コックがいたり…それぞれ一芸に突出した人材が集まったチームなので、みんなの力が合わさるとものすごい力になる。創業3年目ですが、すでに数社で成果を上げています。

USJ在籍時の体験は
どんな時間でしたか?

次々と訪れる究極の賭けに
ドキドキハラハラ

 USJに入った当初、周りからは「なぜ倒産が見えているような場所に行くのか」と言われました。だけど私は、誰もがそう思っているこの会社で「勝ち筋」を見つけて立て直すことができるか、挑戦してみたい! と思ったんです。入ってみたら想像した以上に困難で、本当にハラハラするような究極の賭けに出る場面が何度もありました。でもエンターテイメントを作ることが楽しかったし、1万人の従業員(仲間)と力を合わせて困難を乗り越えていくプロセスや一緒に喜ぶことができる環境、そして何より、自分の考えた戦略で、世間にどう波紋が広がるかを見ることができたことにワクワクしました。知的好奇心と言うのかな。

 「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」ができて、世界のユニバーサル・スタジオのパークの中でも大阪が一番大きくなった。ハリウッドでもなく、フロリダでもなくね。USJがよみがえったことで海外からのインバウンドも大阪に来るようになり、飲食店も栄えて、交通インフラも起こりました。自分が一生懸命働いたことが会社を変え、世の中に変化をもたらすきっかけとなることができたんです。人ひとりの力って、それだけ大きなものを持っていると私は信じています。

学校の成績は良かった?

数学は誰にも負けなかった
でも国語と英語は本当に苦手

 小学生の頃から私は数学しかできない子で、国語は5段階の「1」でした。日本人なら国語で「1」を取る方が難しいと思うんだけど(笑)。あと、漢字ドリルや算数ドリルがとても苦痛で、「なんでこんな作業を何回もやらせるの? 何の発見もない!」って発狂しそうになってました。私は父親が教えてくれた数学の真理に「なんて美しいんだ!」と感動して、数学が好きになりました。小学5年生の時には高木貞治先生の『解析概論』など数学の本をひたすら読みあさっていたくらい。数学って、ドリルのような作業をするためにあるんじゃなくて、世の中の本質的な法則を解き明かすためにある道具なんです。

高校時代に将来の
仕事像は見えていた?

自分の才能がどこで輝くか
まだ見えなかった

 全然! 当時は宇宙物理学者にも憧れていたんだけど、本当にすごいヤツって、明らかに違うんですよね。サッカーとかスポーツでもそうだと思うけど、そういう本当に数学の才能のある人と出会ってしまい、自分の才能はフィールズ賞などをとれるようなものではないと実感しました。それ以来、自分はどうやって生きていくんだろう? とずっと悩んでいたように思います。

 自分が好きなこともやりたいことも「数学」しかなかったんだけど、その先どうしたらいいかは見えていなかったなぁ。でも、経営学部って文系じゃない? 文系の中に入れば、自分の数学の力は輝くんじゃないかなと思ったんです。これが私の「勝ち筋」でした。自分の才能はどこで輝くんだろうと考えることで、私は自分のキャリアを作ってきたような気がします。

森岡毅

森岡毅

大学の進路はどうやって決めたの?

数学のみの一芸入試を見つけ
合格を確信。その後は旅を繰り返した

 私は数学や物理は得意だったんだけど、英語や国語は本当に苦手でした。進路に悩んでいた時、神戸大学の経営学部が数学だけの一芸採用をしているのを見つけたんです。センター試験も数学だけだから、苦手な国語も英語も必要ない! 採用は2名だけだったけど、それを見た瞬間に私は「受かった!」と思って。塾には一度も通ったことはなかったけど、受験数学くらいならほぼ満点をとれる自信はあったから。そこからは受験勉強はやめて、アルバイトをしてお金を貯めて、たくさん旅行して回りました。

どんな仕事を目指したらいいのか
わかりません!

「好きなこと」を深めた先に
自分にしかできない仕事がある

 私は仕事にしていくことは、「好きなこと」でないといけないと思っています。どんな人にも得意なことと苦手なことがあるから、苦手なことを得意になろうとするより、得意を磨いて特技にすることの方が絶対大事。だから、好きなことを見つけて、徹底的に伸ばしてください。その先に、自分の力を世の中に発揮できる人生があります。

 ただ「好きなこと」とは言っても、芸人になりたいとか、音楽家になりたいとかは、成功の確率は極めて低いよね。でも食べていかないといけないので、その道が経済的にリスクを伴う場合は、プランBを立てておくといいと思います。例えば別に美容師免許を取っておくとかね。そうすると、その安心感が、全力で自分がやりたいことに集中させてくれます。

 中途半端にやって成功するなんてことはないので、一度決めたらあれこれ悩まず“ここで勝つんだ”と自分を追い込んで、とことん突き詰めること! 仕事をしていくと、辛いことも多いんです。だからこそ、好きなことでないと耐えられないんです。

もし好きなことが複数あって
決められない場合は?

人生は選択の積み重ね
今の選択が一生続くわけじゃない

 今好きなことがA、B、Cとあれば、ひとまず今ベストだと思う道を進んでください。するとD、E、Fの道が見えてきます。その時は、次の道に進めばいい。今決めた道を一生進まないといけないわけじゃないんです。ひとつ進めばまた新しい景色が見えてくるんだから! その時々に自分が納得のいく選択を積み重ねていくんです。私も今のマーケターの仕事なんて、大学の就職活動の時には見えてなかったです。就職して仕事をして、そこからです。自分の「得意」を見つけていくと、その中で自分の進むべきベストが見つかっていきます。

 ただ、10代の頃って自分の嫌なことばかり気になるじゃない? コンプレックスとか苦手なこととか。私ももっと容姿が良ければなとか思ってたよ(笑)。でも私を救ってくれたのは、容姿を良くする努力ではなく、自分の強みだったんだよね。だから何が自分の得意なことか、好きなことか、たくさん悩んでください。悩むことは若者の特権! そうやって進んだ跡が、振り返れば道になっていきます。これだけは信じてください。人生は、必ず皆さんが望んだ方向に近づいていきます!

    森岡社長が心掛けている3つのこと

  1. 決断する時は自分の感情を外す

    社長の決断は必ずしも全員をハッピーにできない時もあります。難しい案件を右か左か決めなければいけない時に自分の感情に引っ張られると、本当の意味で組織にとって正しい選択はできません。私はとても感情的な人間なので、何か意思決定をする時は、自分の感情によって歪められていないかを3回は自分に問い直すようにしています。

  2. “プル”スタイルを取り入れる

    私は自分が思ったことを人に強く主張するタイプです。小中学生の頃のあだ名は「ブラックジャイアン」(笑)。これをプッシュスタイルと言うんですが、反対にプルスタイルの人は、相手の中から良いアイデアを引き出すのが上手なんです。だからみんなが意見を言いやすい環境にするために、意識的にプルを取り入れるようにしています。

  3. よく遊ぶようにする

    いろんな刺激を脳に与えていかないと頭がかたまってしまうので、どんなに忙しくても仕事だけで1週間が終わらないようにしています。ロードバイクで琵琶湖を一周したり、魚釣りなどのアウトドア、バイオリン、お菓子作り…凝り性で趣味は増える一方(笑)。それにマーケティングの仕事は、消費者の気持ちを知ることも大切だからね!

仕事に欠かせないアイテムは?

お茶とスイーツ!

森岡毅

森岡社長

私は大事なことはすべて頭の中に貯めていくようにしているんです。メモを取ったりスマホに記録することはせず、あえて道具は一切使わないようにしています。だって頭の中にあるものは、誰も私から盗めないでしょ。でも、この大事な頭を機能させるための道具があります! それが、甘いもの!(笑)

BOOK INFO

森岡毅

今回取材をお願いしたきっかけは、この本でした。森岡さんが就職活動に悩む大学生の娘さんのために書かれた“自分の好きなことの先に将来の仕事はある”という内容に、もしかしたら、大学の学部を決めたり将来を考える高校生にも通じるのではないかと思いました。高校生にもぜひ読んでみて欲しい1冊。

森岡毅Tsuyoshi Morioka
戦略家・マーケター。‘72年、兵庫県出身。’96年、神戸大学経営学部を卒業後、P&Gに入社。日本ヴィダルサスーンの黄金期を築き、P&G世界本社へ。’10年、USJに入社。経営難に直面していたUSJにハロウィーン施策や逆走コースターなど革新的なアイデア、「ハリー・ポッター」導入など次々と仕掛け、来場者を倍増させた。7年間のUSJ再建の使命を終えた後、マーケティング精鋭集団、株式会社 刀を立ち上げた。「マーケティングで日本を元気に」という大義の下、数々のプロジェクトを推進中。USJ時代に断念した沖縄テーマパーク構想に再び着手し注目を集める。

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